物理現象の予測にAIを活用、「相変化熱伝達」を分析して効率のよい熱交換器を設計

Share on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedInPrint this pageEmail this to someone

物質の状態変化を伴う熱移動のしやすさを示す指標「相変化熱伝達率」の予測に、人工知能の深層学習を活用する研究が行われています。ヒートポンプなどの熱交換器に応用することで、最適な設計を短期間で実現することが可能になることが期待されます。

相変化を伴う熱伝達は予測が難しい

熱交換器は、温度の高い物体から低い物体へと熱エネルギーを移動させることで、物体を加熱したり冷却するために用いる機器です。

エネルギーを伝えるために用いる媒体が相変化を起こして、液体が蒸気になるなど状態変化を伴う場合、エネルギーの輸送能力は一般的に2桁から3桁も向上します。

そのため、相変化の現象を利用することで冷却や加熱を効率よく行うことが可能になり、熱交換器の能力を向上させることにつながります。

近年では、熱輸送をより効率よく行うために、冷媒を流す伝熱管の内径を小さくした「微細流路」を使った熱交換器が活用されています。

より性能のよい熱交換器をつくるためには、さまざまなパラメーターを変化させたときの熱伝達の効率を予測することが必要になります。

ところが、相変化を伴う場合は伝熱管の中を物性が異なる気相と液相が混在すること、そして内径が小さくなると冷媒の表面張力の効果が大きくなることから、熱伝達を正確に予測することは困難になります。

微細流路における冷媒の様子(電気通信大学)

図の左側は内径1ミリ、右側は25.4ミリの伝熱管の内部の様子を示しています。

流路が小さくなると表面張力の影響が相対的に大きくなるため、内径が大きなものと比べると「弾丸状の気体」が管内側にそってなめらかに移動しており、液体との境界は球形に近い形をしています。

このような気体の形状は、伝熱管の内径や流量を含めた冷媒の条件によって変化し、また沸騰や蒸発が進むにつれて様子が大きく変動していきます。

冷媒の流動の変化は、熱伝達と密接な関係にあるため、これらの流動変化を正確に把握しなければ熱伝達の効率を正確に予測することができません。

熱伝達の予測モデルを人工知能で構築する

熱伝達を予測するためには、流動変化を把握して予測モデルとなる整理式を作成します。そのため、ほかの研究者によって得られた実権データを集め、冷媒や流量、流路などの実験条件を拡張して整理式の一般化を行います。一般的には、このように熱伝達のメカニズムに基づいた機構論的な手法で整理式を作成します。

しかし熱伝達率を得るための実験においては、各種の実験条件やさまざまな物性値など多様なパラメーターが伴って取得されています。これらのデータはいわゆる「ビッグデータ」とみなせるほどの情報量が含まれていることから、AIの深層学習が活用できる可能性があります。

実験

電気通信大学や早稲田大学の研究グループは、これまでに発表されている実験データを用いて深層学習を行い、高精度で微細流路の沸騰熱伝達率を予測できるモデルを構築しました。

深層学習では、1094件の水平流の円形微細流路内沸騰熱伝達の実験データをデータベースとして用いました。

学習は入力層と出力層、そして3層の中間層からなり、入力層には5つの実験条件と16条件の物性値(合わせて21個)を入力し、出力層から熱伝達率のみ出力します。学習と推測には「10分割交差検証法」を実施しました。

10分割交差検証法では、データ群を無作為に10セットに分割して、そのうち9個を学習データに使ってモデル構築、残り1セットのデータを使って目的とする値(ここでは熱伝達率)を推測します。この手続きを10回繰り返します。

予測モデルと整理式における予測精度の比較(電気通信大学)

上のグラフでは、深層学習によって構築された予測モデルと他の3つの整理式について、予測値と実験値の一致度(予測精度)を示しています。

グラフからは、深層学習によって得られた予測モデルが他の整理式と比べて高い予測精度を示していることがわかります。

この結果から、熱伝達メカニズムを解明して作成された整理式と同様に、AIの深層学習を活用して予測モデルを構築することが可能であることが明らかになりました。

物理メカニズムを解明したうえで整理式を作成するためには、相変化熱伝達を専門とする研究者が数カ月以上をかけて文献検索や実験データの整理、物理現象を解明する必要があります。

しかし、深層学習を使って予測モデルを構築する場合は、相変化熱伝達と人工知能を専門とする研究者によってわずか数日で高精度な予測が可能になります。

ただし、AIを使って予測モデルを作成した場合には、物理メカニズムそのものを理解するのは容易ではありません。

そこで研究グループは、伝熱管の流路や重力の概念、熱力学などの物理的知識を新たにAIに組み込むことで、伝熱管や冷媒などの条件に限定されることなく正確な熱伝達率を説得性についても増強させて出力する、新たなAIの研究開発に取り組んでいます。

また、熱伝達率の予測モデル構築にAIを活用することで、高精度な予測が可能になるだけではなく、新たな物理メカニズムの発見にもつながる可能性があると、研究グループは期待しています。

Share on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedInPrint this pageEmail this to someone
NEW POST