AIで「歩き方の特徴」から人物を特定できる どんな向きの人物でも識別可能

駅や商業施設など不特定多数の人が行き交う場所にカメラを設置して、撮影された映像から個人を識別する実証実験が実施されています。




このようなカメラ映像を使った「個人識別」は、不審者や容疑者を特定したり迅速に追跡するなど、犯罪捜査において大いに役立ちます。

また、その他にも商業施設において同一人物の移動経路を解析することで、顧客に応じた効果的なサービスの提供といった、マーケティングへの応用も期待されています。

顔が見えなくても識別できる「歩容認証」

従来は顔認証による個人識別が主な手法として利用されてきましたが、下を向いて歩いたり、マスクなどで顔を隠してしまうと精度が落ちるという欠点があります。

一方、顔認証の他にも「歩容認証」と呼ばれる技術が研究されています。歩容認証とは、人の「歩き方」を分析して、その特徴から個人を識別する技術のことです。

人の歩き方は顔が映っていなくても捉えることができるほか、服装や髪型が違っても変化しないため、途中で服装を変えるなど変装しても個人識別を行うことができます。

歩容認証の欠点とは

人の歩き方の特徴はその動きだけで捉えられることから、服装などに左右されず、また遠方から撮影された低解像度の映像でも抽出が可能です。

しかしながら、歩容認証にも顔認証とはまた違った欠点があります。それは、カメラに対して「歩く向き」が違っていると、見え方が大きく変わってくるため、従来技術では精度よく識別することが難しいことです。

そこで、大阪大学産業科学研究所の研究グループは独自の深層学習モデルを使うことで、歩く向きが違う映像からでも高精度な歩容認証ができる手法を開発しました。

歩く向きに応じてモデルを使い分ける

新たに開発した技術では、独自の深層学習モデルを適切に使い分けることで、歩く向きが異なる場合でも高精度で認証を実現しています。

比較すべき映像の間で歩く向きの差が小さい場合(左側)は、見た目が近いために2つの画像を比較することで歩容認証ができます。

しかし、歩く向きの差が大きい場合(右側)は、見た目が大きく違ってくるため、腕の振り方や脚の振り幅などといった「抽象的な特徴」の差を比較することが有効になります。

このように、歩く向きの違いに応じて深層学習モデルを使い分けることで、どのような映像であっても高精度で認証することが可能になりました。

実際、従来の技術で本人認証を行った場合に誤り率が約40%だったのが、今回開発した技術の場合は誤り率を約4%まで低く抑えることに成功しました。この誤り率は世界最高精度になっています。

また、深層学習に用いる評価基準についても、適切に変更を加えることで、2つの歩行映像で同一人物かどうかを判断する「本人認証」のほか、複数の人物から特定の一人を探すことも可能になりました。

2020年には東京オリンピックが開催されることもあり、日本ではテロを含む犯罪に対応するための安全対策が緊急の課題となっています。今回の技術は、防犯カメラによる犯罪捜査における歩容鑑定の適用範囲を拡大することにつながると期待されています。

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