超感度センサーと機械学習を融合、酒の匂いから「アルコール度数」を推定する

多種多様な化学物質が含まれている「匂い」は意外と解析が困難です。物質・材料研究機構の研究グループは、複雑な混合気体である「匂い」に機械学習の技術を応用して、さまざまなお酒のアルコール度数を推定することに成功しました。




私たちは嗅覚を使ってさまざまな匂いを嗅ぎ分け、それが何の匂いであるかを判別することができます。

しかし、「匂い」と呼ばれる複雑な混合気体は一般的に数百から数千種類もの化合物からなるため、含まれる成分を解析するためにはガスクロマトグラフィーなどの大きな装置を使ってガス成分を分離して個々の分子を解析するなど、非常に高度かつ複雑な解析技術が必要になります。

含まれる成分を分離することなく、「匂い」を直接的に測定して成分を定量的に分析する方法はないのでしょうか。

物質・材料研究機構の研究グループは、最新の測定技術に機械学習の技術を組み合わせることで、匂いからアルコール度数を推定することに成功しました。

超高感度センサーに機械学習を活用

数百数千もの化合物を含む「匂い」を分析するため、「嗅覚センサー」と呼ばれるツールの研究もまた世界各地で進められています。

一般的に、嗅覚センサーではさまざまな種類の感応材料を利用しています。それぞれの「匂い分子」に対して応答特性が異なるセンサーを複数使って、「匂い」に対する各センサーの応答の様子を総合的に判断して匂い分子を定性または定量的に調べます。

しかしながら、現状ではこれらの測定機器は非常に高価であって手軽に利用できるシステムとは言えません。

そこで、研究グループはセンサーや感応材料といったハード面とともに、解析手法であるソフト面についても最適化しました。

センサー素子には、従来と比べて100倍以上の超高感度になるように構造を最適化した膜型表面応力センサー(MSS)を4つ並列にならべて使用。

センサー素子に塗布して「匂い分子」を吸着させる感応材料には、独自に開発したナノ粒子を4種用いました。

テストケースとしてお酒の匂いからアルコール度数を推定

今回は、テストケースとして「お酒の匂い」からアルコール度数を推定するモデルを構築しました。

ビールやウォッカなど、アルコール度数の異なる32種類の液体サンプルを準備して、それぞれの匂いをセンサーに吹き付けます。そのときの反応を測定して、各サンプルに対する応答パターンを収集しました。

各サンプルのアルコール度数はすでにわかっていることから、これらの応答パターンとアルコール度数を対応させたものをデータセットとして、機械学習によってアルコール度数を推定する予測モデルを構築しました。

アルコール度数が同じサンプルであっても、エタノール以外の匂い分子の影響によって、応答パターンは多種多様になります。上のグラフは、測定に用いた4種のセンサーにおける、各サンプルの応答パターンを示しています。

アルコール度数と応答パターンの間にある相関は単純ではないため、アルコール度数と応答パターンの背後にある非線形な相関関係に着目して機械学習によって解析しました。

今回の解析に用いた機械学習の手法は比較的シンプルな回帰手法であったため、ほかの手法を用いることでより精度を向上させることも期待できるとしています。

上のグラフで、緑の点は機械学習に使われた32種類のサンプルを示しています。そして赤の点は、学習に使用しなかった3種類のお酒(赤ワイン、芋焼酎、ウイスキー)の推定結果を示しています。

病気の診断や環境モニタリングにも応用が可能

今回はお酒の匂いからアルコール度数を推定するモデルを構築しましたが、この手法は基本的にどのような匂いに対しても適用することができます。

そのため、例えば食品の成熟度や鮮度を調べて品質管理を行ったり、疾病の程度と匂いとを関連づけることで呼気から病気の診断をしたり、あるいは環境モニタリングや防災など多岐にわたる分野への応用もまた期待できます。

物質・材料研究機構(国際ナノアーキテクトニクス研究拠点):文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラムの9拠点のひとつ。「世界の中で『目に見える研究拠点』の形成」の達成とともに、21世紀の持続可能社会の実現に向けた革新的材料の創出に挑戦している。

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