さまざまな物質の性質を調べる「X線スペクトル測定」を効率的に行うために人工知能(AI)の技術を活用する方法が開発されています。従来の手法と比べて測定時間が5分の1まで短縮できたとしてます。
X線スペクトル測定とは
多種多様な用途で使われている材料の機能や性質は、これらの物質の中に存在している電子の振る舞いによって支配されています。
この「電子の振る舞い」を調べることで、より高機能な新たな材料を開発することにもつながります。そして、それを調べる実験手法のひとつが、物質にX線を照射してその応答を調べる「X線スペクトル測定」です。
X線スペクトル測定では、さまざまなエネルギーをもつX線(さまざまな波長をもつX線)を試料に照射して、その応答を測定します。実験では温度や圧力などの条件を変える必要もあるため膨大な量のデータを測定することになるため、測定の高効率化が課題となっています。
そこで、高エネルギー加速器研究機構の研究グループは、機械学習の技術を応用することで測定の効率化をはかる手法を開発しました。
AI技術を活用して測定を効率化する
X線スペクトルには、物質によって特徴的なピーク構造があります。
これまでは、ピークが出現する範囲では詳細にエネルギーを変化させてデータ点を細かくして、それ以外の範囲ではデータ点の間隔を粗くする測定をしていました。
どのエネルギー範囲でデータ点を細かくとるかは、実験者の経験と勘に基づいて実験計画を立て、エネルギーを低い側から高い側へと順番に数百回もの測定を繰り返す必要がありました。
そこで新たに開発した手法では、機械学習の一種である「ガウス過程回帰」を用いて実験データを学習することで、X線スペクトルを予測します。
それによって計測すべきデータ点を自動的に決定することによって、最も効率的な実験計画を立てることが可能になりました。
X線磁気円二色性スペクトル測定に応用
新しく開発した手法を、実際にX線磁気円二色性スペクトル測定に応用しました。
まずはじめに少数のデータ点を計測して初期データ点とします。この結果をガウス過程回帰で学習することで、予測スペクトルと予測の誤差スペクトルが得られます。
そして、これらのスペクトルに基づいて次に計測すべきデータ点を決定します。
測定は、計測ごとに予測スペクトルを定量解析して特定の収束条件を満たしたときに測定を終了するスキームとします。
計測の数(白丸)が増えるに従って予測スペクトル(青線)が従来の測定によるスペクトル(点線)に近づいていくことがわかります。
また、同時に予測スペクトルと誤差スペクトル(赤線)も近づいていき、重なっていきます。
今回の実験では、データ点の数が40点で大まかなスペクトルの形がつくられ、70点では細かいピークも含めて従来の測定と同じ結果が再現されることがわかりました。
その結果、従来の測定と比べてわずか5分の1の計測点数で同等の精度で測定を終了することができました。
今回の手法はX線スペクトル測定のみならず、ほかのさまざまなスペクトル測定にも応用が可能であって、実験時間の短縮や実験コストの軽減につながると期待されています。