コンクリートなど構造物の異常を検査する「打音検査」に人工知能を活用したシステム「AI打検システム」を、産業技術総合研究所が開発しました。点検漏れの防止や業務の効率化につながると期待されます。
近年はさまざまな社会インフラの老朽化が進んできていることから、事故を未然に防ぐためにもインフラの点検業務に対する需要が急増することが予想されています。
コンクリート構造物などのインフラを点検する作業では、目視による点検とともに「打音検査」が広く行われています。
このような一次検査で異常が発見されると、その後に計測機器を使った精密検査が行われます。
現状の作業では、目視や打音による一次検査は点検員による経験や感覚に依存していますが、高齢化などの影響によって熟練の点検員は減少する傾向があるため、点検員の感覚に頼らずに「打音の異常」を定量化できるシステムの開発が課題となっていました。
そこで、開発された「打検システム」では人工知能が活用されています。
点検ハンマーによって打撃を加えた際に得られた「打音」の違いを機械学習して、構造物に異常がある場所と、その異常の度合いを自動的に検知できるようにします。
点検結果はリアルタイムで点検員に提示されるとともに、点検ハンマーが打たれた位置情報と統合されて「異常度マップ」が作成されます。
このシステムを活用することで、異常箇所の図面化も含め、作業工数を削減することができます。
さらに、点検員が熟練していなくても見落としなく点検作業を進めることができるため、熟練点検員の確保が難しい地域でも点検精度を維持することが可能になります。
点検ハンマーの異常音を十分に精度よく解析するためには、機械学習のためのデータが十分に収集することが課題になります。
特に、インフラ構造物を対象とする場合には、構造物の材質や形状、あるいはハンマーの種類などのバリエーションが大きいことから、それらすべてを網羅できる多様なデータを集めることが困難なケースもあります。
そのため、装置を使いながらその場で機械が学習していく「オンライン学習」の手法が導入されました。
作業の点検前に、明らかに正常と判断できる箇所を打撃して、その打音の特徴を使って正常音のモデルをはじめに作成します。
その後、正常な打音モデルから逸脱した打音を異常として検出するようにします。正常モデルから逸脱しなかった打音については再び正常であると仮定して、正常モデルを更新していきます。
このようにして、バリエーションが大きい対象物についても正常データをリアルタイムで機械学習していくことで、データば不十分な段階でも検査を可能にしました。
今後、さらに実証実験を積み重ねていくことでシステムの完成度を高め、平成29年度中に製品開発の体制を構築するとしています。
※試作したAI打検システムの実機が「建設技術公開EE東北’17」と「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2017」で展示されます。
建設技術公開EE東北’17:平成29年6月7~8日に夢メッセみやぎ(仙台市)で開催。
メンテナンス・レジリエンスTOKYO2017:7月19~21日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催。