全固体リチウムイオン電池に使う電解質の素材を新開発するために、人工知能(AI)を活用することに成功しています。実際に合成して評価実験が行われ、有用性が実証されています。
電気自動車に利用する電池として、走行距離などの向上が期待できる「全固体電池」の開発が進められています。全固体電池は、従来の電池の電解液のかわりに固体の電解質を使用した電池で、固体内をイオンが移動します。
電池材料がすべて固体となることから、液漏れや発火などの心配がないといったメリットもあります。そのため、高温環境での使用も可能なことから、高電圧化や大容量化がしやすい次世代の電池として世界で開発が進められています。
全固体リチウムイオン電池の電解質を開発する
全固体リチウムイオン電池に使う電解質を開発するうえで、リチウムイオン伝導率は重要な特性のひとつとなっており、電池の充放電の速度を決定づけます。
高いイオン伝導率を示す材料を開発するため、これまでは研究者らの長年の経験などに頼らざるを得ず、多くの試行錯誤が伴いました。
一方で、近年では高機能な材料をつくるための最適な物質組成を、実験に先立って予測することも行われています。
「第一原理計算」とは材料シミュレーションの手法のひとつで、量子力学に基づく電子状態理論を使用して、原子の数や種類のみから材料の性質を計算で予測することが可能になります。
しかしながら、ほかの手法と比べると計算量が多いため、さまざまな組成について計算しようとすると計算量が膨大になり時間がかかるといった課題もあります。
そこで今回、富士通株式会社と理化学研究所の研究チームは、第一原理計算にAI手法のひとつであるベイズ推定法を組み合わせることで、計算回数を数十分の1まで軽減することに成功しました。
AIを活用してリチウムイオン伝導度を予測する
全固体リチウムイオン電池の固体電解質の候補材料のひとつで、3種類のリチウム含有酸素酸塩から合成される化合物について、最適な組成を予測しました。
第一原理計算は、3種類の化合物(A、B、C)について15種類の異なる組成に対してイオン伝導度を推定しました。
その後、実際に化合物を合成して分析を行ったところ、予測された組成付近では他の組成よりも高いリチウムイオン伝導度が実現できることが確認されています。
今回の実験結果から、計算負荷が大きい第一原理計算から得られるデータが少ない場合であっても、AI技術を活用することで最適な材料組成を効率的に探索することが可能であることがわかりました。
また、これらの研究結果は材料開発におけるAI活用の機会を促進することにつながり、さまざまな材料に対して適用が可能な「マテリアルズ・インフォマティクス技術」の確率も期待されます。
これらの技術は材料開発のスピードを加速させることが可能であるため、より多様なこれまでに例のない高機能材料の開発にもつながります。