乳がんにおいてリンパ節転移が起きているかどうかを正確に判断することは、その後の治療方針や予後の決定においては重要な要因になってきます。
リンパ節転移の判定は、通常は顕微鏡を使って病理組織を観察することで行います。しかし、とくに小さな病変については見逃しやすく、病理医のスキルによって診断結果に差が出てしまうことも問題になっています。
そこで、病理医による病変の見逃しを阻止することや、診断精度の施設ごとの差を小さくするためにの技術が求められています。
その技術の一つとして、病理組織の画像からがん細胞を判定する手法が期待されており、その精度を競う国際コンペティション「Camelyon17」が開催されました。
コンペティションの結果は先月、国際生物医学イメージングシンポジウムで発表され、ホームページで公表されました。
東大と東京医科歯科大の共同研究チームは、乳がん患者のリンパ節転移の判定精度において世界4位に入賞しました。日本国内からの参加チームとしては、唯一の入賞となりました。
AIを使った画像診断アルゴリズム
研究チームは、乳がん患者のリンパ節組織の画像30万枚をトレーニングデータとして、深層ニューラルネットワークへの読み込みを行い、ディープラーニングを実施しました。
画像は、がん細胞の領域を写したものと、がん細胞以外の領域のものを使います。
ニューラルネットワークの中間層の中から病理組織の像についての特徴的な情報を抽出して効率的に学習させたところ、画像パッチレベルでの判定でAUC0.97%という高い精度を達成することに成功しました。
画像パッチとは、画像解析を行う単位となる画像の一部分の範囲のことで、一般的には256ピクセル四方や128ピクセル四方ほどの大きさをいいます。
また、AUCとは「Area under the curve」の略で、画像の識別性能を評価する際に使われる数値。0から1の範囲を示し、1に近づくほど性能がよいとされています。
得られた解析結果を病理組織の画像上に重ね合わせることで、がん細胞の「存在確率マップ」を作成。がん転移の有無や乳がん患者のステージの判定を行ったところ、参加チーム中4位という成績を収めました。
Camelyon17の順位についてはホームページで公開されています。
東大と東京医科歯科大のチームはトップこそ取れませんでしたが、日本国内からの参加では唯一の入賞で、4位という成績は立派なものです。
また、今回のコンペはディープラーニングなどの人工知能技術を使った画像診断が有効であり、実際の医療現場で医師による診断の補助に実用化が可能であることを示しています。