いまのゲームは人工知能でできている:ゲームAIとは何か

今や人工知能は多種多様な産業分野で活用が進んでおり、これからの世界をけん引する技術として疑う人はいないでしょう。そして、もともとデジタルな技術をベースとするゲーム開発の分野では、当然ながらAI技術を使わない理由はありません。現状において、ゲーム開発に使われる人工知能「ゲームAI」とは、どういったものなのでしょうか。




ゲームAIが導入されていく

現在はゲーム業界でも本格的にAIが活用される時代になっていますが、それもこの5年くらいのこと。そのあたりの状況については、モリカトロン株式会社の森川幸人氏とゲーム開発者の三宅陽一郎氏が詳しく解説しています(ゲームAIが相手にされなかった理由–森川幸人氏と三宅陽一郎氏が語る苦闘の歴史)。

近年は世界的にAI技術が注目されていますが、ゲーム業界やエンターテインメント分野に特化したAIを専門とする企業は世界でもほとんどないとのこと。意外にも、ゲーム業界ではAIはあまり注目されていなかったようです。

森川氏は20年も前からゲームにAIが有用だと主張したが「相手にされなかった」と話しています。人工知能の研究そのものも数十年前から行われていますが、いくつかの波はあるものの本格的に注目を浴びるようになったのはここ最近。ゲーム業界でも似たような状況かも知れません。

ゲーム開発者の三宅陽一郎氏によると、1990年代後半に入ってからゲーム業界でもAIに注目する時期はあったけれども、それから2000年代に入ると「グラフィックス」に注力するようになったという。

その、グラフィックスの進化がようやく落ち着いて、2011年か2012年くらいから再びAIが注目されるようになったとしています。

AIをゲームに活用することで、いったいどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。これについて、三宅氏は「固定化していたものを動的なものにする」と表現しています。ゲームAIをひと言で表すと、これに尽きるのかも知れません。

ゲームに含まれるコンテンツは、従来は固定化されているものでした。それが「動的」なものになるとはとういうことか。

たとえば、キャラクターがどのように動くかという順路「パス」は、AIを使うとリアルタイムで計算して自由に動くことが可能になります。この技術は「パス検索」と呼ばれています。

また、敵キャラクターが出現する位置についても最初から固定されているわけではなく、プレイヤーが来た方向に応じて変えることができます。また、ゲームの難易度やストーリーそのものもAIが作り出すことによって、よりコンテンツに柔軟性が生まれることにもつながります。

プレイヤーにとって最良なゲームとなるようにゲーム自身が変化する、つまり「動的」なものにすることが、人工知能では可能というわけです。

このように、各キャラクターの動きに自由度をもたらしたり、最近では「メタAI」と呼ばれるゲームデザインを調整するAIも取り入れられています。

また、特にソーシャルゲームでは同じことを繰り返しさせることが比較的多いため、この性質はAIの学習にも向いているとのこと。つまり、プレイログを解析することでユーザビリティの向上などゲーム開発にも活用することができます。

ゲーム開発の段階について言えば、「デバッグ」でのAIの活用も進んでいます。

ゲームAIの原点は「放置ゲーム」

今年8月に日本では初めてとなるゲーム専用AI会社を設立した森川氏ですが、そもそもAIを活用したゲームを作るきっかけとなったのは、「やらなくていいゲームを作りたかった」からだというのはとても興味深いことです。

これは、今で言えばいわゆる「放置ゲーム」と呼ばれる分野になります。

ソニーから1997年に発売されたプレイステーション用のゲーム「がんばれ森川君2号」は、AIを搭載した「PiT(Pet in TV)」を育成するゲーム。箱庭の世界を冒険して「AI-CHIP」を集めていくのが目的のゲームです。

発売当時はボリュームのあるコントローラーを駆使する遊びごたえのあるものが求められていたとのことで、一定の売上げはあったももの「やることがない」として、ユーザーからはあまり評価を受けなかったと振り返っています。

ちなみに、タイトルに「森川君」とありますがキャラクターとは一切関係がなく、ゲームタイトルに自身の名前が入っていることも「ゲームショウで初めて知った」とのこと。「2号」とありますが、別に1号があるわけでもありません。

「森川君2号」の反省を踏まえて新たにリリースしたのが「ここ掘れ!プッカ」で、エンターテイメント性を強くしたものに発展させています。

しかしながら、売上げは今ひとつ。とはいえ、ゲームにAIを使おうと構想した原点はこのあたりにあったようです。

ドラマ性と自律性のせめぎ合い

ゲームにAIを導入することでキャラクターの動きに自由度が出て、コンテンツに柔軟性が生まれる反面、開発者側からすれば邪魔になる一面もあります。

森川氏によると、ゲームは「筋書きのあるドラマ」という一面があるといいます。しかし、AIが自律性をもってキャラクターを動かすと、開発者が思い描いた通りの展開にならないケースが出てきます。

従来はキャラクターの行動をパスで設定して開発者のコントロール下に置いていました。しかし、最近ではAIに任せる部分も増えてきている。「アートとテクノロジーのせめぎあい」(三宅氏)。

現在のゲームAIでは、役割を与えられたキャラクターが「パス検索」を使って自由に動きます。そして、キャラクターの意図しない動きを管理するために、「メタAI」が搭載されます。

メタAIとはゲーム内においては「神様」のような役割をもっています。メタAIを導入することで、自由奔放なキャラクターが役者が演技するように振る舞うことが可能になります。AIをゲームに導入するためには、必要不可欠な技術だとのこと。

ゲームAIの開発の現状について

2017年11月23日、ゲームAIの開発についての現状と未来を語る「Sybuya Synapse」のイベントで三宅氏がゲーム業界全体の状況や今後について解説しました(ゲームAI開発の現状と未来を語る“Shibuya Synapse”第2回が開催! 注目の講演をピックアップしてリポート)。

三宅氏によると、ゲームAIには「ゲームの中のAI」と「ゲームの外のAI」があるとまとめています。

ゲームの中のAIには「キャラクターAI」「ナビゲーションAI」「メタAI」があり、これらはゲームそのものを構成するAIになります。

キャラクターAIは、キャラクター自身が自律的に思考して行動するためのAI。キャラクターが意思決定するモデルは大きく分けて7つのアルゴリズムに分類できるとしています。ルールベースAI、ステートベースAI、ビヘイビアベースAI、ゴールベースAI、タスクベースAI、ユーティリティベースAI、シミュレーションベースAIの7つです。

ナビゲーションAIは、環境を認識するためのもので、目的地に向かってパス検索してルートを作成するようなAIです。これには、なるべく敵の視界に入らないポイントに移動するようなAIも含まれます。

メタAIは先にも出てきましたが、ゲーム全体をコントロールするためのAIです。メタAIは敵の配置やストーリー展開、そしてゲームレベルの調整も含まれます。ユーザーの挙動から緊張度を分析して、敵の数を調整してゲームの緩急を自動的に生み出すなどの工夫がなされます。

話は変わって「ゲームの外のAI」について。これはゲームを構成するAIではなくて、ゲームを開発するために活用するAIのことを指します。

一つの事例として「プレイヤーエージェント」が挙げられます。これは、プレイヤーの代わりにゲームをプレイする「ボット」のこと。

人間ではなくAIがゲームを自動プレイすることで、より効率的にゲームを評価することが可能になります。

どのようにしてプレイヤーエージェントを使うかについては、スクウェア・エニックスの眞鍋和子氏が分かりやすい事例を紹介しています。

スマートフォンアプリの「グリムノーツ」では、主人公ひとりについて二人のヒーローをセットできます。また、ヒーローにはそれぞれ武器やアクセサリーを複数セットでき、さらに強化アイテムを付けることも可能。

このようにして、4人の主人公のパーティーでは、それらの組み合わせが膨大なものとなってきます。

グリムノーツでは毎月のようにヒーローや装備を順次追加しており、それらの組み合わせがどのような効果を生むのかについて、すべての組み合わせを調べるのは不可能とのこと。

そんなとき、とても役立つのがプレイヤーエージェントに実際にバトルをさせて評価する方法になります。

実際にはいくつかの要素を省略してシンプルなものとし、短時間に自動プレイをさせてバトルの結果を数値化。膨大な組み合わせについて、相対的な評価を決定していきます。

最後に、三宅氏は講演の締めくくりとしてこんな言葉を残しています。

「産業・アカデミック間で連携することで、お互い利益があるのではと思います」

さまざまな分野で共通することですが、日本では大学などアカデミックな研究組織あるいは研究者と産業界との連携が弱い傾向があります。今後はゲーム界においても両者が密に連携することで、より大きな発展へとつながることが期待されます。

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