好感度が抜群なテレビCMを人工知能が予測できる時代に

新商品がヒットするかどうか、明暗を分ける要因のひとつに「CMの成功」が挙げられます。もし、CMの企画段階でCMの好感度が正確に評価できれば、ヒット商品を生み出す確率もグッと上げることができるでしょう。




最近ではドラマや映画など映像制作の分野でも人工知能(AI)を活用する動きが活発化しています。たとえば、テレビ番組の出演者などから「番組視聴率」を放送前に予測するシステムの開発などがはじまっています(テレビ番組の視聴率をAIで予測するシステムを電通が開発)。

過去に計測されたデータを十分に用意することができれば、さまざまな予測が可能になるのがAIの技術です。そこで、CMを企画する初期段階において、実際に放映したときの視聴者に与える好感度を予測するシステムの開発がすでに進められています。

AIを活用したCM好感度予測システム「CREATIVE BRAIN」を開発しているのは株式会社コラージュ・ゼロ。CM好感度データは、CM総合研究所が提供しました。

CM総合研究所では、1988年から東京キー局で放送されたすべてのCMについてデータを収集しています。2018年1月までに85万を超えるデータを保存しており、データには放送開始日や広告主、作品名、分野などの基本的なデータのほかに、ナレーションや画面文字、出演タレント名など詳細な情報が含まれています。

また、1989年からは「月例CM好感度調査」の結果についても収集されています。このデータには、男女別や年齢別のCM好感度、そして好感された要因や購買意向度などについても指標化されて保存されています。

株式会社東京企画

これらの膨大かつ詳細なデータはAIを学習するデータとしても適しています。過去に制作されたCM作品がもつ特徴と、そのCMが放映された結果を指標化した好感度データがあれば、これらを使って好感度の高さと関連する特徴を抽出することが可能になります。

企画段階の「字コンテ」からCM好感度を予測する

システムがどの程度正確にCM好感度を予測できるかについてはすでに検証されており、「8割以上」の精度が達成されているとのこと。では、いったいどのようにしてCMの企画段階で好感度を予測しているのでしょうか。

実際に使うデータは「字コンテ」と呼ばれるテキストで、以下のような文章です。読むと脳内に映像が具体的に出てきます。

日差しが照り付ける高校のグラウンドで部活をする野球部。休憩で、部室に戻る少年。
そこには後輩の少女が待ち伏せしていた。汗だくの少年に冷たいペットボトルを渡す少女。
「先輩、正門で待ってますね」。嬉しそうに走り去る少女。去り際に振り返って、ウインク。我に返って驚く少年。
暑い夏に、爽やかな刺激。ビタミンレモンサイダー
サイダーをグッと飲んで、ダッシュでグラウンドに戻る少年。

炭酸飲料水のCMによくありそうな映像ですね。高校生くらいの男女を対象にいかにも「青春」なイメージがストレートに表現されています。無難ではありますが、あまりヒネリがない印象も受けます。さて、このCM企画をAIはどのように評価するのでしょうか。

実際に「CREATIVE BRAIN」が予測した結果が公開されています。

TVCMの好感度事前予測(株式会社東京企画)

好感度は0.2弱で、マイナスではないもののそれほど高くはなかったようですね。ストーリー性やユーモラスさはあるものの、商品の魅力が伝えきれていない点が課題かも知れません。このように、単純に「好感度」を評価するだけではなくて、具体的にどのような点が優れていてどういった課題を抱えているかが数値で把握できるところが実用的です。

また、このシステムは男女や年齢層など対象となる消費者別でも好感度を評価できる点が特徴です。今回の例でいえば、男性には好感される一方で、女性に対してはむしろマイナスのイメージが強いCM映像になりそうです。

また、おそらくこの商品がストレートに対象としているティーンエイジャーについて好感度を見てみると、13~19歳で男女ともに好感度がマイナスな点が致命的な結果となっています。

もしこのシステムを実際に運用していてこの企画書を評価するとしたら、秒速で「ボツ」となるのではないでしょうか。

「CREATIVE BRAIN」の技術については現在特許出願中で、ベータ版のリリースに向けてインターフェースを開発中だとのこと。このシステムが実用化されれば、これまでよりもっとビシビシと「伝わる」テレビCMが連発されて、景気のよい時代が到来するかも知れません。

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